遺産分割協議が円滑にまとまったケース

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相続におけるトラブルの多くは、財産の「分け方」をめぐる意見の相違から始まります。
今回は、父親の遺産である不動産を巡って意見が対立したものの、専門家の関与によって円満に解決したAさん一家のケースをご紹介します。
「誰かが悪いわけではない」相続をどうまとめるのか――その道筋を丁寧にたどっていきましょう。

兄弟それぞれの事情と価値観の違い

Aさん(東京都・60代)は、父親の他界を機に、地方都市にある実家と畑を兄弟3人で相続することになりました。
長男のAさんは都内で会社員として勤務、次男は関西に転勤後も定住、三男は九州で自営業を営んでいました。

実家は木造二階建ての築45年の家屋で、長年の風雨にさらされて老朽化が進行。
庭の手入れや屋根修繕、固定資産税などの維持費も年間で約20万円かかっていました。

兄弟それぞれの立場は次の通りでした。

  • 長男:父の想い出が詰まった家を「できれば残したい」
  • 次男:現実的に使い道がなく「売却すべき」
  • 三男:遠方のため管理が難しく「負担を減らしたい」

話し合いを重ねるうちに、感情的なやり取りが増え、ついには話し合いの場すら設けられなくなっていきました。

行き詰まりを打開した「専門家への相談」

状況が動いたのは、固定資産税の納付期限が迫った頃でした。
「誰がどのように支払うのか」さえ決まらず、Aさんは不安を感じて不動産相続に詳しい司法書士事務所を訪ねました。

司法書士はまず、現状を数値で“見える化” するところから始めました。

兄弟それぞれの立場は次の通りでした。

  • 土地・建物の査定額
    およそ2,800万円
  • 維持費
    年間約20万円(固定資産税・清掃・修繕費含む)
  • 仮に5年放置した場合の実質負担
    約100万円+老朽化リスク

次に、売却した場合と保有した場合の比較表 を提示。
査定価格で売却すれば、税金や手数料を差し引いても兄弟1人あたり約850万円を手にできる見込みがあることを具体的に示しました。

さらに司法書士は、税理士とも連携し、譲渡所得税・相続税の試算書 を作成。
これにより、感情論から「数値ベースの判断」へと議論が移り変わりました。

買い取りによる所有一本化

面談の結果、次男・三男は「売却もやむなし」と考える一方、Aさん(長男)は「父の思いを残したい」と譲れない気持ちを持っていました。
司法書士は双方の意向を踏まえ、長男が他の兄弟の持分を買い取る 形を提案しました。

不動産会社による正式な鑑定評価を基に、以下の条件で合意が形成されました。

  • 買い取り金額:1人あたり約850万円
  • 持分譲渡契約書の作成と登記を司法書士が代行
  • 譲渡所得税および登記費用は長男が負担
  • 支払いは公証役場で確認のうえ実施

手続きを透明化することで、兄弟間の信頼が保たれ、最終的に円滑な合意に至りました。

専門家の介入が生んだ「冷静な対話」

Aさんは当時を振り返り、次のように話しています。

最初は兄弟だけで話しても感情的になってしまいました。
でも、専門家が間に入ることで“数字で説明”してくれたおかげで、皆が冷静になれたんです。

司法書士が作成した遺産分割協議書には、将来的なトラブルを防ぐための条項も盛り込まれていました。
たとえば「今後、名義変更後に新たな主張をしない」「税金・管理費の清算は協議日を基準に行う」といった明確な取り決めです。

こうした一文があることで、後から「言った・言わない」の問題を防げます。

相続後の変化と地域への貢献

協議成立後、Aさんは建物を一部リフォームし、地域の空き家バンクに登録。
数ヶ月後、移住希望の若夫婦が入居し、家賃収入が発生するようになりました。

結果的に、

  • 年間収益:約80万円
  • 固定資産税・維持費:約20万円
  • 純利益:約60万円

という安定した小規模不動産収益が生まれ、家も地域も再び息を吹き返しました。

Aさんは最後にこう語ります。

父の残した家をただ売るのではなく、次の世代に“活かす”形にできて良かったと思います。

成功のポイントまとめ

この事例がスムーズにまとまった要因は、次の3点に集約されます。

結果的に、

  1. 第三者(司法書士)の介入で冷静な議論を実現
    感情ではなく数値に基づいた判断が可能に。
  2. 市場価値・税額などを明確化した資料提示
    全員が納得できる共通認識を持てた。
  3. 協議書による法的な取り決め
    後日のトラブルを未然に防止。

これらの取り組みにより、兄弟の関係を壊すことなく「人間関係を守る相続」を実現できたといえるでしょう。

まとめ

相続は、財産を「どう分けるか」だけでなく、「どう気持ちを整理するか」でもあります。
専門家の助けを得ながら、事実と数字を軸に話し合うことで、家族関係を損なわずに解決へ導くことが可能です。
Aさん一家のケースは“残す”と“手放す”の中間にある最善の選択肢を見出した好例といえるでしょう。