
裁判所は、オーナーが拒否した理由の正当性や、借地権者の土地利用に問題がないかを審理します。多くの場合、裁判所はオーナーの意向を尊重しつつも「承諾料の支払い」や「追加の金銭提供」を条件として名義変更を許可するケースが多く見られます。
底地オーナーが直面する重要な契約管理業務の一つに、借地権者の名義変更(譲渡・転貸)への対応があります。借地権者が第三者に借地権を売却したり、又貸し(転貸)したりする場合、原則としてオーナー(地主)の承諾が必要です(民法第612条、借地借家法第19条)。この承諾はオーナーの重要な権利であり、無断で行われた場合は契約解除の事由にもなり得ます。オーナーは、名義変更の手順、承諾料の相場、そして法的なリスクを正確に理解し、適切に対応することが求められます。
名義変更が必要な主なケース
借地権の名義変更が必要となる主なケースは以下の通りです。それぞれ承諾の必要性や手続きが異なります。
1.借地権の譲渡(売買)
借地権者が第三者に借地権を売却するケース。オーナーの承諾が必須です。
2.借地権の転貸(又貸し)
借地権者が第三者に土地を又貸しするケース。オーナーの承諾が必須です。
3.相続
借地権者が亡くなり、法定相続人が借地権を承継するケース。この場合はオーナーの承諾は不要です。ただし、オーナーは相続の事実を知った後、名義変更通知を受け取り、契約上の名義人を変更する手続きを行う必要があります。
4.借地上の建物の贈与
借地上の建物のみを第三者に贈与するケース。実質的に借地権も譲渡されているとみなされるため、オーナーの承諾が必要です。
名義変更承諾料の相場と算定方法
オーナーが名義変更を承諾する対価として受け取るのが承諾料です。
これは法的な義務ではなく、慣習や契約書の規定に基づいて支払われるものであり、オーナーの重要な収入源の一つです。
相場
名義変更承諾料の相場は、一般的に借地権価格の10%程度とされています。
算定方法
まず、不動産鑑定士などに依頼し、借地権価格(更地価格 × 借地権割合)を算定してもらいます。
そして、その借地権価格に対して、10%前後の割合を乗じた金額が、承諾料の目安となります。
注意点
契約書に承諾料の金額や算定方法が明確に規定されている場合は、その規定が優先されます。規定がない場合は、周辺の慣習や判例を参考に交渉することになります。
オーナーの対応手順と承諾を拒否できる条件
名義変更の打診を受けた場合、オーナーは以下の手順で対応を進めます。
1.申請内容の確認
- 譲渡・転貸の相手(第三者)の資力と信用力を調査します。地代の滞納リスクが高くないか、土地利用計画は適切かなどを判断します。
- 契約書に名義変更に関する規定があるかを確認します。
2.承諾または不承諾の判断
オーナーは、相手の資力や土地利用計画に問題があると判断した場合、承諾を拒否できます。
ただし、合理的な理由なく拒否すると、借地権者から裁判所への申立てが行われるリスクがあります(後述の「借地非訟手続き」)。
3.承諾書の作成と承諾料の受領
承諾する場合は、承諾料を受け取った上で、名義変更承諾書(または覚書)を正式に作成し、新たな借地権者との間で契約関係を明確にします。
借地非訟手続き(オーナー拒否時の対応)
オーナーが名義変更を拒否した場合、借地権者は裁判所に対し、「名義変更の許可」を申し立てることができます(借地借家法第19条)。
これを借地非訟手続きといいます。
1.裁判所の判断
裁判所は、オーナーが拒否した理由の正当性や、借地権者の土地利用に問題がないかを審理します。
多くの場合、裁判所はオーナーの意向を尊重しつつも「承諾料の支払い」や「追加の金銭提供」を条件として名義変更を許可するケースが多く見られます。
2.オーナーの対応
オーナーは、借地非訟手続きを避けたい場合、事前に弁護士と連携し、合理的な承諾料を提示して和解を目指すのが賢明です。
拒否する場合は、その理由が客観的かつ合理的なものであることを立証できる準備が必要です。
名義変更は、新たな借地権者との長期的な関係の始まりでもあります。オーナーは、承諾の権利を適切に行使し、底地経営の安定性を確保することが重要です。
まとめ
借地権の名義変更(譲渡・転貸)は、オーナーの承諾が必須です(相続を除く)。オーナーは、承諾の対価として、慣習的に借地権価格の10%程度とされる承諾料を受け取ることができます。無断譲渡や無断転貸は契約解除事由となりますが、承諾を拒否した場合は借地非訟手続きに発展するリスクがあります。オーナーは、譲渡相手の信用力を調査し、契約書に定められた手続きに従って承諾料を算定・受領し、弁諾士と連携して法的な対応を正確に行うことで、底地経営の安定化を図るべきです。
