
借地上の建物が極端に老朽化し、倒壊や火災の危険が生じた場合、底地オーナーは安全管理という観点から、建物の解体、または大規模な補修を借地権者に要求する権利を持ちます。老朽化建物の放置は、隣地や通行人への損害賠償リスク、そしてオーナー自身の土地の価値を低下させるため、トラブルを未然に防ぐためにも、オーナーは速やかに交渉を開始し、是正措置を講じさせる必要があります。
老朽化建物がオーナーにもたらす3つのリスク
滞納が2ヶ月以上に及んだ場合、オーナーは法的措置への移行を視野に入れ、「信頼関係の破壊」を立証するための準備を始めなければなりません。
1.損害賠償リスク
建物が倒壊し、隣地や通行人に損害を与えた場合、建物の所有者である借地権者が一次的な責任を負いますが、土地の工作物(建物)の瑕疵(かし)による損害として、オーナーも民法上の責任(民法717条)を問われる可能性があります。
2.土地の価値低下
極端に老朽化した建物が建っている底地は、市場での評価が著しく低下し、売却時の価格が低くなります。
3.地代改定交渉への悪影響
老朽化を理由に借地権者が地代改定や更新を拒否したり、交渉が難航したりする原因となります。
オーナーが取るべき「是正要求」の交渉戦略
オーナーは、単なるお願いではなく、法的な根拠と専門家の意見に基づいて是正を要求することが重要です。
1.専門家による「危険性」の客観的な立証
まず、一級建築士や専門機関に依頼し、建物の老朽化度合いや倒壊の危険性を評価する診断書を取得します。
これは、オーナーが是正を要求する際の最も強力な客観的根拠となります。
2.内容証明郵便による「是正措置」の請求
診断書を根拠として添付し、借地権者に対し、「〇月〇日までに補修または建替えの具体的な計画を提出し、危険性を解消するよう」書面(内容証明郵便)で強く要求します。
これにより、オーナーが安全管理義務を怠っていないという証拠を保全します。
3.費用の負担に関する提案
借地権者が費用の捻出を困難と主張する場合、オーナー側から「解体費用の一部をオーナーが負担する」といった提案をすることも、交渉成立に向けた有効な譲歩策となります。ただし、この負担はオーナーにとっての事業費として経費計上が可能かなど、税理士との相談が必要です。
要求に応じない場合の法的措置
借地権者が是正要求に応じず、建物の危険性が解消されない場合、オーナーは最終的に以下の法的措置を検討する必要があります。
1.契約解除
建物の老朽化が極端で、公共の安全に重大な危険を及ぼす場合、借地契約の「信頼関係の破壊」とみなし、契約解除(建物収去土地明渡訴訟)を検討できます。
ただし、裁判所が認めるハードルは高いです。
2.妨害排除請求
建物が倒壊の危険をはらんでいる場合、オーナーは所有権に基づく妨害排除請求を裁判所に提起し、危険な状態の除去を求めることができます。
老朽化建物への対応は、安全管理と資産価値保全の両面から、オーナーの積極的な関与が不可欠です。
まとめ
借地上の建物が老朽化し、倒壊・火災の危険がある場合、オーナーは隣地への損害賠償リスクを負う可能性があります。
トラブル回避のためには、一級建築士による診断書を取得し、危険性の客観的な立証を行うことが必須です。診断書を根拠として内容証明郵便で借地権者に是正措置を強く要求します。要求に応じない場合は、妨害排除請求を検討します。
オーナーが解体費用の一部を負担することも含め、安全管理と資産価値の保全を優先した戦略的な交渉を行うことが不可欠です。
