
底地オーナーにとって、借地契約の更新時は、地代改定交渉を行う重要な機会であると同時に、将来的に土地の利用権を回復するために「更新拒絶」を行う可能性を秘めた局面です。借地権が普通借地権である場合、オーナーが更新を拒絶するためには「正当事由」が必要であり、この事由は非常に厳しく判断されます。
トラブルを回避し、将来的な土地の回復の可能性を高めるためにも、オーナーは更新時から正当事由を構築するための証拠を準備しておく必要があります。
更新拒絶の「正当事由」を構成する要素
借地借家法第6条は、オーナーが更新を拒絶するための「正当事由」を構成する要素として、以下の点を定めています。
1.オーナー側の土地使用の必要性
オーナー自身やその家族が、将来的に土地を事業用や居住用として利用する必要性。
2.借地権側の土地使用の必要性
借地権者がその土地を生活の基盤として、どれほど必要としているか。
3.借地に関する従前の経過
地代の支払い状況、契約違反の有無、オーナーが地代改定や管理に誠実に対応してきたかなど。
4.建物の状況
建物の老朽化の程度。
5.立退料の提供
オーナーから借地権者に対し、立退料を支払う意思があるか。
このうち、オーナー側で意図的に準備・強化できるのが「オーナー側の必要性」と「借地に関する従前の経過」です。
正当事由を構築・補強するための3つの証拠
オーナーは、更新時やその後の契約管理を通じて、以下の3つの証拠を計画的に準備する必要があります。
1.オーナー側の土地利用計画書
- 目的
将来的に「オーナー自身が土地を使用する必要性」を客観的に立証するため。 - 準備
土地の利用計画(例:老後の居住用住宅を建てる、事業拡大のための事務所を建てる)を具体的に記載した書面を作成し、できれば建築プランや事業計画書を併せて準備しておきます。
2.地代改定交渉の客観的記録
- 目的
「借地に関する従前の経過」において、オーナーが収益の適正化に誠実に対応してきたことを証明するため。 - 準備
過去の地代改定交渉の記録(内容証明郵便、鑑定評価書など)を全て保管しておきます。これにより、「オーナーは地代を放置していたわけではない」と立証できます。
3.借地権者の契約違反に関する記録
- 目的
借地権者側の正当事由(土地使用の必要性)を減殺するため。 - 準備
過去の地代滞納、無断増改築、土地の不適切な利用など、借地権者側の契約違反や不誠実な対応に関するすべての記録(督促状の控え、写真など)を蓄積しておきます。
正当事由の判断は、最終的に裁判所が「立退料の提供」も含めた総合的なバランスで決定します。オーナーは、将来の選択肢を確保するためにも、契約管理を厳格に行い、正当事由を裏付ける証拠を計画的に収集し続けることが不可欠です。
まとめ
底地オーナーが契約更新を拒絶するためには、「正当事由」の立証が極めて厳しく求められます。トラブル回避と将来の土地回復の可能性を高めるため、オーナーは更新時から、オーナー自身の土地利用計画書を具体的に作成し、過去の地代改定交渉の客観的な記録(内容証明郵便など)、そして借地権者の契約違反に関する記録という3つの証拠を計画的に準備・構築する必要があります。
これらの証拠は、最終的な裁判で立退料の提供と合わせて正当事由の有無を判断する際の重要な裏付けとなります。
