承諾料の根拠と承諾条件の賢い付加

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借地上の建物が老朽化し、借地権者から建替え(または大規模な増改築)の承諾を求められたとき、底地オーナーは重要な交渉の機会を迎えます。借地借家法上、建替えには原則としてオーナーの承諾が必要であり(借地借家法第17条)、オーナーにはこの承諾を与える対価(承諾料)を受け取る権利があります。しかし、単に金銭を受け取るだけでなく、建替えという長期的な土地利用に影響を与える機会を最大限に活用し、承諾条件として将来の地代改定契約の明確化を盛り込むことが、底地経営の安定化に不可欠です。

建替え承諾がオーナーにもたらす2つのリスク

オーナーが建替えを承諾する際、以下の2点のリスクを負うことになります。
承諾料は、これらのリスクに対する対価として捉える必要があります。

1.借地期間の長期化リスク

新たな建替えが行われた場合、借地借家法第7条により、特約がない限り借地権の存続期間は建替えの日から20年間に延長されます(最初の存続期間が30年未満である場合を除く)。これにより、オーナーが土地を取り戻せる時期がさらに遠のくリスクが生じます。

2.地代据え置きのリスク

建替えに伴い借地権者の土地利用が安定するため、オーナーが将来的な地代改定交渉を行う際に、借地権者が「多額の費用をかけて建替えたばかりだ」と主張し、交渉が難航するリスクがあります。

承諾料の客観的な根拠

承諾料の額は法律で定められていませんが、不動産鑑定の慣行と判例に基づき、客観的な根拠をもって交渉を進めることが重要です。

1.相場

一般的に、更地価格(自用地価格)の3%〜10%程度が目安とされています。

2.算定の根拠

  • 経済的利益
    建替えによって建物が新しくなり、借地権者の建物価値が向上し、担保価値が高まるという経済的利益に対する対価。
  • リスク対価
    オーナーが負う、土地の利用制限期間の延長(長期化リスク)に対する補償。

オーナーは、単に「相場だから」と主張するのではなく、建替え後の建物の種類(例:木造からRC造への変更)による耐久年数の延長を根拠に、承諾料の割合が相場の上限に近い水準となるよう交渉すべきです。

承諾料以上の価値を持つ「承諾条件」の賢い付加

建替え承諾の最大の目的は、承諾料ではなく、承諾という強力な権利をテコに、底地経営の将来的なリスクを解消することです。
承諾と引き換えに、以下の「承諾条件」を借地権者との間で覚書として締結することで、オーナーは長期的な利益を確保できます。

1.地代増額の確約

  • 「承諾後〇年以内に、公租公課の変動を根拠に地代改定交渉に応じる」という条項を覚書に明記させます。これにより、建替え直後の交渉拒否のリスクを減らせます。
  • 可能であれば、建替え後から一定期間(例:5年後)の地代の具体的な増額幅(または算定式)を定めることを交渉します。

2.更新料・名義書換料の明確化

将来の更新料名義書換料の支払い義務と金額(または算定式)が契約書に規定されていない場合、この機会に明確な基準を覚書に盛り込み、将来のトラブルの芽を摘みます。

3.転貸(又貸し)の厳格な禁止

建替え後の建物の用途が住居から事業用になる場合など、無断転貸(又貸し)を厳しく禁止する条項を追加し、違反時の契約解除事由を明確にします。

4.建物の構造に関する制限

将来的に建物を収去する際の負担を考慮し、地中の杭や基礎構造について、オーナーの承諾なしに大規模な変更を加えることを禁止する条件を付加します。

裁判所への申立て(借地非訟)のリスク回避

オーナーが不合理な条件で承諾を拒否したり、過大な承諾料を要求したりすると、借地権者は裁判所に対して建替え許可の申立て(借地非訟手続き)を行うことができます。

裁判所の判断

裁判所は、オーナー側の承諾料の要求が不当であると判断した場合、オーナーの承諾に代わる裁判所の許可を与えます。この際、裁判所が定めた相当額の承諾料が借地権者からオーナーに支払われます。

オーナーの対応

オーナーは、裁判所の介入を避けるため、交渉の段階で客観的な根拠に基づいた合理的な承諾料と、将来的な経営改善につながる承諾条件を提示し、和解を目指すべきです。

建替え承諾は、底地経営の未来を左右する交渉です。オーナーは、承諾料という目先の利益だけでなく、長期的な収益の安定契約の明確化に主眼を置いた戦略的な交渉を行う必要があります。

4.建物の構造に関する制限

将来的に建物を収去する際の負担を考慮し、地中の杭や基礎構造について、オーナーの承諾なしに大規模な変更を加えることを禁止する条件を付加します。

まとめ

借地上の建替え承諾は、オーナーの土地の拘束期間を延長し、将来の地代改定交渉を難しくするリスクを伴います。
オーナーは、このリスクへの対価として、更地価格の3%~10%程度とされる承諾料を受け取る権利があります。最も重要な交渉術は、承諾料の金額だけでなく、承諾と引き換えに地代増額に応じる確約各種承諾料の明確な規定など、承諾条件を覚書として付加することです。不当な拒否は借地非訟手続きを招くため、弁護士と連携し、客観的な根拠に基づいた合理的な交渉を行うべきです。