
底地オーナーにとって、借地権者が無断で建物の増改築や建替えを行うことは、所有権を侵害する重大なトラブルです。借地借家法上、借地権者が建物の増改築や建替えを行うには、原則としてオーナーの承諾を得る必要があります(借地借家法第17条)。このルールを無視して無断で行われた場合、オーナーは速やかに対応しなければ、将来的な権利関係が複雑化し、土地の返還がさらに困難になるリスクがあります。
なぜ承諾が必要なのか?
増改築・建替えにオーナーの承諾が必要な主な理由は以下の2点です。
- オーナーの承諾権
借地借家法は、増改築によって土地の価値や利用状況が長期的に変わることを考慮し、オーナーに承諾権を与えています。 - 借地期間の延長リスク
特に建替えの場合、借地権者は建物の存続期間を延長する特約(例:建替えにより存続期間を20年にする)を主張する可能性があります。この特約を巡る紛争を避けるためにも、事前の合意が必須です。 - 信頼関係の破壊
無断での増改築は、オーナーの権利を無視する行為であり、借地契約における「信頼関係の破壊」とみなされ、オーナーが契約解除できる最も重要な根拠となります。
無断増改築・建替えが発覚した場合の対処法
借地権者がオーナーの承諾を得ずに増改築・建替えを行った場合、オーナーは借地借家法第17条に基づき、以下の法的措置を取ることができます。
- 建物収去土地明渡請求
無断増改築は、借地契約における「信頼関係の破壊」とみなされる重大な契約違反です。オーナーは、契約を解除し、建物を撤去(収去)して土地を明け渡すよう裁判所に請求できます。 - 増改築禁止請求
まだ工事が完了していない場合、または今後、無断での増改築を繰り返す可能性がある場合に、工事の中止や将来の増改築を禁止するよう請求できます。 - 原状回復請求
増改築された部分について、元の状態に戻すよう請求できます。
無断増改築・建替えが発覚した場合の「3段階の対処法」
無断増改築が発覚したら、オーナーは時間を置かずに以下の法的措置を段階的に行う必要があります。
第一段階
内容証明郵便による抗議と中止請求 無断増改築の事実を知った時点で、速やかに内容証明郵便で借地権者に対し、工事の中止と契約違反であることを通知します。この書面は、オーナーが契約違反を容認していないという意思表示の証拠となります。この段階で、弁護士に相談し、今後の法的対応の準備を始めることが賢明です。
第二段階
裁判所への訴え 抗議にもかかわらず工事が継続される場合、オーナーは裁判所に以下の訴えを起こします。
- 増改築禁止請求:工事の完了を阻止するため、裁判所に増改築行為の禁止を求めます。
- 建物収去土地明渡請求の検討:無断増改築は重大な契約違反ですが、裁判所は「信頼関係の破壊」の有無を慎重に判断します。地代の滞納や他の契約違反行為が複合的に存在する場合に、契約解除が認められやすくなります。
第三段階
和解または強制執行 裁判で契約解除が認められた場合、建物の撤去(収去)と土地の明け渡しを命じる判決が出ます。借地権者が判決に従わない場合、オーナーは強制執行を申し立て、裁判所の権限で建物を撤去し、土地を取り戻すことになります。
無断増改築トラブルにおける裁判例と勝訴のポイント
裁判所は、単なる「無断」という事実だけで契約解除を認めるわけではありません。判例では、無断増改築が土地の利用状況を大きく変え、オーナーに回復不可能な損害を与えるか、あるいは借地権者の態度に悪質性があるかなどが重視されます。
【勝訴のポイント】
オーナーは、無断増改築の事実だけでなく、借地権者が過去に地代を滞納していた、オーナーからの再三の注意を無視した、といった信頼関係の破壊を裏付ける客観的な証拠を収集し、弁護士と連携して法廷で提示することが勝訴への鍵となります。時間を置くと、増改築が完成し、事実上の既成事実となってしまうリスクが高まるため、迅速な対応が不可欠です。
まとめ
借地権者がオーナーの承諾を得ずに増改築・建替えを行った場合、これは「信頼関係の破壊」とみなされる重大な契約違反です。オーナーは、直ちに内容証明郵便で抗議し、工事の中止を求め、建物収去土地明渡請求訴訟を検討する必要があります。無断増改築が発覚したら時間を置かず、借地権に強い弁護士に相談し、法的な証拠を保全しながら迅速に対応することが、権利を守る上で不可欠です。
