
底地オーナーにとって、「借地非訟(しゃくちひしょう)」手続きは、借地権者から裁判所を通じて権利行使をされる、最も専門的で対処が難しいトラブルの一つです。借地非訟手続きは、オーナーの承諾が必要な行為(例:借地権の譲渡、建物の建替え、増改築など)に対し、オーナーが拒否した場合に、借地権者が裁判所に代わりの許可を求める手続きです。オーナーが不意打ちを食らわないよう、この手続きの全容と、有利に進めるための備えを理解しておくことが不可欠です。
借地非訟手続きの仕組みとオーナーが対応すべき申立て
借地非訟手続き(借地借家法第17条、第19条)は、「オーナーの承諾に代わる裁判所の許可」を得ることを目的としています。裁判所が判断することで、オーナーの合理的でない拒否権を制限し、借地権者の土地利用を円滑にするための仕組みです。
オーナーが主に直面する申立ては以下の3つです。
1.借地権譲渡・転貸の許可申立て(第19条)
- 状況
借地権者が第三者に借地権を売却したいが、オーナーが承諾を拒否した。 - オーナーの権利
裁判所は、オーナーに代わり譲渡を許可する際、オーナーに対し「承諾料の支払い」や「増額地代の受け取り」を条件とすることができます。 
2.建物建替えの許可申立て(第17条)
- 状況
借地権者が建替えたいが、オーナーが承諾を拒否した。 - オーナーの権利
裁判所は、建替えを許可する代わりに、借地期間の延長についてオーナーに代わって判断したり、オーナーに承諾料の支払いを命じたりすることがあります。 
3.地代増減額調停の申立て(調停前置主義)
- 状況
地代改定の交渉が不調に終わった。 - 手続き
厳密には非訟手続きではないですが、裁判所での解決が求められます。 
オーナーが有利に進めるための3つの準備
借地非訟手続きで不利な決定を避けるには、オーナー側の主張が合理的であることを裁判所に示す必要があります。
1.「正当な拒否理由」の明確化
- 譲渡・転貸の場合
拒否理由が「買主の資力・信用力に問題がある」や「土地の利用計画が不適切」といった客観的なものであり、感情論でないことを明確に立証できるように準備します。 - 建替えの場合
拒否理由が「建物の構造更による土地の拘束期間の延長が不利益である」といった合理的理由であることを証明します。 
2.不動産鑑定評価書の取得
承諾料や増額地代、立退料などの金銭の額を決定する際、裁判所は鑑定評価を重視します。オーナーは、交渉や申立てを受ける前に、適正な承諾料や底地価格を示す鑑定評価書を取得し、客観的な主張の裏付けとすることが不可欠です。
3.早期の弁護士連携
借地非訟手続きは、裁判官が介入し、調停や決定を通じて和解や解決を図るため、手続き開始の通知を受け取った時点で、借地借家法に強い弁護士に相談し、オーナーの権利が最大限に守られるよう戦略を立てることが重要です。
まとめ
借地非訟手続きは、借地権者から裁判所を通じてオーナーの承諾に代わる許可を求める手続きです。オーナーは、借地権譲渡・建替えの許可申立てなど、様々な申立てを受けるリスクがあります。手続きを有利に進めるためには、「買主の資力に問題がある」といった客観的かつ正当な拒否理由を明確化し、不動産鑑定評価書を取得して承諾料の適正額を示すことが不可欠です。オーナーは、裁判所からの通知を受け取ったら、必ず弁護士と連携し、迅速かつ戦略的に対応すべきです。
