
底地経営の安定性を脅かす最大の要因の一つは、長年放置されてきた賃貸借契約書に潜むオーナーにとって「不利な条項」です。特に、戦前の旧法時代から続く古い契約書には、現在の借地借家法や判例の常識から逸脱した、オーナーの権利行使を著しく制限する規定が含まれていることが少なくありません。トラブルを未然に防ぐためには、契約書を徹底的に見直し、不利な条項を発見・特定し「覚書」や「合意書」を作成してリスクヘッジを行う戦略が不可欠です。
オーナーにとって不利になりがちな代表的な条項
契約書を見直す際、以下の条項はオーナーの権利を大きく制約する可能性があるため、特に注意が必要です。
1.「建物の朽廃まで」の期間規定
存続期間が「建物が朽ち果てるまで」とされている場合、事実上半永久的な契約となり、オーナーが土地を取り戻す可能性が極めて低くなります。これは旧法時代によく見られた規定です。
2.地代改定に関する規定の欠如
「地代は固定とし、特段の事情がない限り改定しない」といった規定や、地代改定に関する規定そのものが全くない場合、地代改定交渉の際、借地権者から「契約にない」として交渉を拒否される根拠を与えてしまいます。
3.各種承諾料に関する規定の欠如
更新料、建替え承諾料、名義書換料などの支払い義務が契約書に明確に記載されていない場合、将来これらの請求をしても、借地権者から「契約に規定がない」として支払いを拒否されるリスクが高まります。
4.無断譲渡・増改築時の「契約解除」規定の曖昧さ
無断で譲渡や増改築が行われた場合の契約解除事由が、抽象的な表現に留まっている場合、裁判で「信頼関係の破壊」を立証する際のハードルが上がります。
不利な条項を是正するための「覚書」の活用
不利な条項や曖昧な規定が発見された場合、オーナーは借地権者の同意を得て覚書(合意書)を作成し、契約内容を補完・是正することでリスクヘッジが可能です。
1.覚書作成の最適なタイミング
- 契約更新時
契約期間が満了し、更新手続きを行う際。 - 建替え承諾時
借地権者が建替え・増改築の承諾を求めてきた際。 - 名義変更時
借地権の譲渡・転貸の承諾を求めてきた際。 オーナーに権利があるこれらの節目は、借地権者も応じやすい最高のタイミングです。
2.是正の内容例
- 「今後の地代改定については、借地借家法第11条の定めるところにより、協議に応じるものとする。」
- 「本契約の更新時には、地代の〇ヶ月分に相当する更新料を甲(オーナー)に支払うものとする。」
専門家によるリーガルチェックの徹底
契約書の解釈は専門的な知識を要するため、オーナーが自己判断で行うのは危険です。必ず借地借家法に精通した弁護士や司法書士に依頼し、リーガルチェックを受けることが不可欠です。専門家によるチェックは、将来の訴訟リスクを回避するための、最も安価で確実な投資と言えます。
まとめ
底地契約書に潜む「朽廃まで」の期間規定や地代改定規定の欠如といった不利な条項は、将来のトラブルの火種となります。オーナーは、弁護士によるリーガルチェックを徹底し、不利な条項を発見・特定する必要があります。リスクヘッジのためには、契約更新時や建替え承諾時といったオーナーに交渉の権利がある最適なタイミングで、覚書(合意書)を作成し、地代改定義務の明確化や各種承諾料の規定を盛り込むことで、契約内容を是正・補完することがトラブル回避の鉄則です。
